「Z世代の部下育成は難しい。どうすればいいのか」という課題について、ここでも何度も取り上げてきました。しかし、自分が専門学校で講師をして感じたことは、これまでの学生とどこが違うのかということでした。もし、Z世代の学生時代は他の世代と変わりがないとしたら、なぜ社会人になると育成が難しいと感じるのでしょうか。ここでは、違いが生じる要因について説明します。
どの世代も共通だと思える学生時代
まずは、各世代の共通点からみていきましょう。Z世代の学生は、他の世代の学生時代と比較して、素直でおとなしい人が多いという違いは感じますが、以下の点では同じであると考えられます。
1.授業は基本、受け身
学校は学ぶ場なので、基本的には先生や講師が知識を与えることが主になります。つまり、学生は知識を与えられるという意味では、受け身になります。もちろん、ゼミなどでは積極的に動くことを求められることはありますが、それはどの世代でも状況としては変わらないといえるでしょう。
2.リーダー的な存在は少数派
部活やサークルでは部員を引っ張っていくリーダー的な存在は、どの世代の学生時代にもいるでしょう。しかし、多くの学生はリーダーと一緒に頑張る、楽しむことはあっても、みんながみんなリーダーシップを発揮しているわけではなく、リーダー的な存在は少数派といえるのではないでしょうか。
このように学生時代では、どの世代においても主体性を求められる場面、またはもともと主体性を持っている人はあまりなく、同じような体験をしてきたということができるのではないでしょうか。
社会人になって育成の難しさの違いが出る理由とは
学生時代を見る限りでは、他の世代とそれほど差を感じないZ世代の部下育成が、なぜ他の世代の育成より、管理職にとって難しいと感じるのでしょうか。要因について考えてみましょう。
1.簡単に答えが得られることに慣れている
ネットがない、発達していないときは、お店や会場に行くなど知らないことを調べることに対して、人に聞いたり図書館に行ったりと、調べるにも方法を考えたり工夫する必要がありました。ネットが発達して、知らない用語、お店の地図などを検索して調べられるようになりましたが、スマホが発売される前までは、パソコンがあるところでないと調べられない、地図アプリもないという、スマホが当たり前の現在と比較すれば、やはり何かを調べる、答えを得るための手間がかかっていたといえます。
Z世代は物心ついた時からスマホがある環境で育ってきました。何かあれば検索してすぐにわかる、物の名前がわからなくても画像で検索ができる、地図アプリが行き方を教えてくれる、つまり調べるため工夫や苦労をしなくても答えが簡単に手に入る中で育ってきたといえるのです。
そんなZ世代にとって、答えを簡単に得られない仕事、業務をすることは他の世代と比較すると「初めて」というくらい慣れないことであることが想像できます。スマホに聞けばよかったことを、業務では人に聞かないとならなくなります。それも慣れていないことといえるでしょう。何かを知るために工夫や手間がかかった時代を経験している管理職世代が、なぜこの指示だけで伝わらないのかと思うことが多々あるのは、Z世代の簡単に答えがスマホで得られるのが当たり前という感覚が、実感できないことにあるかもしれません。Z世代がもつ感覚を理解することで、この指示だけで業務が進められないのはなぜ?という疑問はなくなるのではないでしょうか。
2.選択の幅の広がり
ネットの発達により、リモートで仕事をするなどの多様な働き方が選択できるようになりました。それに加え、動画配信者など新たな職種も出現しています。そして、ネットを通じてさまざまな働き方、新たな職種の存在についてZ世代は容易に知る機会を得ることができます。よほど「これがしたい!」という場合は別として、選択肢の幅が広がっていることを知っているZ世代は、我慢や自分が考える許容を超えた頑張りが求められる仕事であれば、新しい仕事を選ぶという選択をすればよいと考える傾向があっても不思議ではありません。もちろん、新たな選択をしたとしても必ずしも自分が求める環境になるとは限りません。しかし、選択肢があるということの印象が強く、新たな選択をすることでどういうことが起きる可能性があるかを教えてくれる大人が周りにいない、または相談せずに選択した後のことなど深く考えず今の環境を変えたいという思いだけで突き進んでしまっても、経験と知識の不十分さを考えれば大いにあり得ることといえるでしょう。
管理職世代が若手社員の時代より、Z世代の部下には働き方の選択肢の幅が広くなっていること、そして、新たな選択をするのに管理職への相談の可能性は少ないことを理解しておく必要があるでしょう。そのことを理解したうえで、普段からのZ世代の部下とのコミュニケーションでは、自社で働き続けるという選択肢にはどのようなメリットがあるかを伝えていく必要があるといえるのです。
3.嫌いな人は避ければいい?
自分が新入社員のころ、新人研修の中で「学生と社会人の違いは」という質問に対して何人かの同僚が「学生時代は好きな人とだけ付き合っていればいいが、社会人になると好きな人とだけ付き合うということはできない。苦手な人とも仕事を一緒にしていかなくてはならない」と答えていたことが印象に残っています。確かに、業務をするうえで、いろんな人と関わりを持つ必要があり、その人たちが自分の好きな人とは限らないということはあり得るでしょう。管理職世代の中には同じような感覚をもって入社した人もいるのではないでしょうか。
ハラスメントが注目されている現在、嫌な人と付き合う必要性を感じないZ世代の部下も多くいるのではと想像できます。ハラスメントはあってはならないものです。しかし、社会人として、実際のハラスメントを経験したことのないZ世代の部下にとっては、ハラスメントと指導の差が理解できない可能性もあります。もちろん、これまで指導する側としては当たり前だと思っていた指導方法の中にも、実は部下が辛い思いをしていたということもあるでしょう。そのため、これまでの指導方法がすべてハラスメントに当てはまらないというものでもないかもしれません。ただ、Z世代の部下はハラスメントという言葉が世間に浸透した後に入社してきた世代です。ハラスメントという言葉に敏感になりすぎて、自分に強く当たられるとハラスメントではないかと考えたり、嫌いだから避けたいと思ってしまったりする可能性は否定できません。
社会人生活の中で好きな人とだけ仕事ができるという場合ばかりではありません。管理職は、たとえ好きではない人と一緒に仕事をすることになっても、業務を遂行するという共通の目標のもとで動いていることをZ世代の部下にきちんと伝え、時にはZ世代の部下が苦手としている部下との間に入って業務を進めやすくするためのサポートをしていく必要があるといえるでしょう。
管理職はZ世代と共通の部分、異なる部分を理解して部下育成していこう
Z世代は自分たちとすべてが異なると考えていた管理職世代にとって、学生時代はZ世代の部下とほとんど変わらなかったというのは少し驚きかもしれません。共通の部分もあるということをわかったことで、Z世代の部下育成に対して肩の力を少し抜いてはいかがでしょうか。そのうえで、改めて異なる部分について理解していくのがいいでしょう。そして、素直でおとなしい傾向のあるZ世代の部下を頼もしい先輩、リーダーに育てていくことにトライしてみてはいかがでしょうか。
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